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「農業競争力強化支援法案」は日本農業破滅法案 価格競争ではなく品質競争が生き残りへの道

農業情報研究所 201724日より

 日本農業新聞によると、農水省が今国会に提出する農業競争力強化支援法案が与党内で物議を醸している。火種はこの法案に含まれる「農業者は、その農業経営の改善のため、農業資材の調達や農産物の出荷、販売に関して必要な情報を収集し、主体的かつ合理的に行動するように努めるものとする」という条項、2日に開かれた自民党農林関係合同会議で異論が相次いだ。中でも自ら農業を営む藤木眞也氏(参・比例)は、「上から目線で(農業者が)ばかにされている」と訴えた。この規定が、値段にかかわらず言われるがままにJAを利用するといった受け身で非合理的な行動をとる農家を想起させるという(農家に努力義務を課す農業競争力強化支援法案修正へ 自民農業者議員から異議 全農業者が異議申し立てを 時評日日 1723日)。

 こうした声を受け、会合は法案の了承を見送り、政府・与党は法案の「内容を修正する方向で検討に入った(競争力強化支援法案 農家努力義務 修正へ 自民から異論続出  日本農業新聞 201723日 1面)。ところが農水省、農業者の「努力義務」既定を残すことになおこだわっている。農業者等の努力義務を法律で定めることにより「経営者としての農業者のためにJAや全農などが改革に取り組み、それを促す」法的根拠が強化できるということらしい(「努力義務」で攻防 自民不要、農水は固執 日本農業新聞 201724日 3面)。

 農業者をまるで「国家公務員」のように扱おうというこの馬鹿馬鹿しい話にこれ以上付き合おうとは思わない。ただ、「農業競争力強化」にかかわる論議の中でこんな馬鹿馬鹿しい話がどうして生まれるかという本質的問題には触れておきたい。問題は、法案が専ら農業の「価格競争力」を念頭においていることだ。「品質競争力」は全く念頭に置かれていない。だからこそ、 「生産資材業界の再編、法制度、規制等の見直し」による「良質かつ低廉な農業資材の供給」と、「流通加工業界の再編、 法制度、規制等の見直し」による「農産物流通等の合理化」による流通コストの引下げ 資材コストの引下げ」(だけ)が問題になり(農業競争力強化支援法案(仮称)の骨子 農林水産省 20171月)、その文脈において農業者の「努力義務」も問題になるわけだ。

 ところで、農業の価格競争力の圧倒的規定要因は天賦の土地の広さであり、わが国農産物の「価格競争力」は規模をどんなに拡大し・農業資材の調達価格をどんなに引き下げたところでとても米・豪などに及ばないことは、これまでにも再三再四述べてきた(肥料・農薬価格引き下げはTPP対策にならない 本格化する政府・自民党の農業・農村潰し,16.9.5農業成長産業化という妄想――「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきこと 世界(岩波書店) 20169月号など)。

 そんなことは意に介さず、小規模農家を保存する補助金をなくし・農地集積による規模拡大で農業競争力を強化することでTPPに備えよと論じてきたジャーナリストの中からも、「効率の向上には限度がある兼業農家にまで幅広く補助金をばらまく農政をあらため、担い手に支援を集中して生産効率を可能な限り高める。それでもおそらく、米国や豪州に効率で張り合うことは難しいかもしれない」と言う人も現れている(危うい幻想「日本のコメは世界一」 続「vs米国産」、おいしいのはどっち? 吉田忠則 日経ビジネス 201723)。

 しかも彼は、日本の米のカルローズ(カリフォルニア産ジャポニカ中粒種)に対する品質優位性も確かなものではなく、「世界の農業大国と比べて湿度の高い日本は、一般的に農薬の使用量が多い。病害虫のリスクがより高いからだ」、「国産だから安心」という漠然とした思い込みに安易に乗っかる危うさ」も指摘している。

 日本農業の競争力、そもそも法案が定める「農業者の経営努力の義務付け」が問題になるようなベルでも次元でもないのだ。

 米、豪、南米などに比べた価格競争力が問題外であることはヨーロッパも同じである。フランス1999年農業基本法の制定に当たり、当時の農相・ルパンセックは、「「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる。それはフランスの少なくとも三〇万の経営(当時のフランス農業経営のほぼ半分―農業情報研究所注)を破壊するような価格でのみ可能なことであり、それは誰も望んでいない。公権力の介入は、欧州、そして世界で商品化され得る高付加価値生産物の加工を助長するときにのみ意味を持つ」(方向転換目指すフランス政―新農業基本法制定に向けて 北林寿信 レファレンス 19993月号 58頁)と述べた。

  2000年に274億ユーロであったフランスの加工農産食料品輸出額は2010年に363億ユーロ、14年には433億ユーロとうなぎのぼりに増えている。非加工農産品輸出額は99億ユーロから147億ユーロに増えただけだhttp://agreste.agriculture.gouv.fr/IMG/pdf/Gaf16p114-119.pdf)。フランスは価格ではなく、品質(Signes de la qualité et de l'origine)にかけることで農産食料品輸出大国になったのである。

 「農業競争力強化支援法案」を議論にしている間にも、日本農業は破滅への道をひた走る。「価格競争力」に頼らなくても存続可能な小規模兼業農家や自給的・趣味的・生き甲斐農業さえも切り捨てることなく、競争力については「品質競争力」をこそ議論すべきである。品質競争力強化支援?有機・自然農業支援()、環境保全農業支援、保護地理表示産品奨励・・・、その方法はいくらでもあるだろう。 生産コスト削減=価格競争力の追求は農家にとって「経営努力」=労働だが、少しでもいいものを作る=品質の追求は生産者の本能であり、喜びでもある。


 その上、価格競争力=効率ばかりの追求には「意外な落とし穴もある。山奥の管理できない水源地を外国人に購入されたという話も聞いている。水という国民全体にとってかけがえのない資源は、中山間地域の地形の中で営まれてきた農業によって守られてきた面もある。その役割を少数の担い手だけに求めていくなら負担が重すぎる」(山本陽子=岡山県吉備中央町 有限会社吉備高原ファーム代表 「中山間地域の農業を守るには」 農業共済新聞 2017年1月周号)。農家に「経営努力」=生産コスト削減を迫ることは、国民に別の重いコストを負わせることになる。


 )「担い手」ならきっとこう言うに違いないが。

 「あのやりかたにゃかなりの長所があるよ。だけどおれは大規模な有機農場なんて見たことがないな。あれをやっている連中は、多かれ少なかれ小規模経営だよ。国中を食わせるほどでっかい規模で有機農業が可能だとは思わないね。小さな有機農場はいっぱい見られるけどな。以前はトラックファーマーと呼ばれた連中さ。町までルートをつくって農産物を配達したり、そんなことをしてたんだ。できたものを直接家庭に小売するわけだ。大きな金儲けなんて全然無理だね、ほかのみんなとちょうど同じさ」(アメリカ・インディアナ州の農家 スタッズ・ターケル 中山容他訳 『仕事!』 晶文社 1983年 64頁)。かつて家で仕事を手伝っていたが今はバーデュー大学を卒業してジョージア州に住み、経営の勉強をしているその息子は、「農業をやるより、なにか別の仕事についたほうがもっと金が儲かるってこに気がついたんだな」(同 65-66頁)。



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Author:寿
農業情報研究所(WAPIC)=http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/の所長・所員・小使いを兼務

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