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米の食味ランキング 入り乱れての消耗戦 美味い米作りの正念場 種子法廃止をにらんで


 農業情報研究所 2017224日改訂増補版より

 日本穀物検定協会が平成28年(2016年)度の米の食味ランキングを発表した。

 米の食味ランキングとは、炊飯した白飯を実際に試食して評価する食味官能試験に基づき、全国規模の産地品種の食味をランクづけるものです。複数産地コシヒカリのブレンド米を基準米とし、これと試験対象産地品種を比較しておおむね同等のものを「A’」、基準米よりも特に良好なものを「特A」、良好なものを「A」、やや劣るものを「B」、劣るものを「B’」とランクづけます。 

 28年産米については全国30県、44の産地品種が「特A」と評価された。かつて「特A」と言えば、新潟県魚沼・佐渡のコシヒカリを筆頭に、岩手県南・宮城県北・中部ののひとめぼれ、秋田県南・北のあきたこまち、山形県庄内・内陸のはえぬき、福島県会津のコシヒカリなど、極めて限られた産地品種に限定されていた。ところがここ数年、北海道のななつぼし、ゆめぴりか、東山・北陸諸県のコシヒカリ、西日本におけるヒノヒカリ(奈良、熊本)、鳥取県のきぬむすめ、佐賀県のさがびよりなど、新興産地品種が台頭してきた。2010年の「特A」産地品種は20を数えるにすぎなかったが14年には40を超えるまでに増えた。

 コシヒカリに追いつけ!各道府県農試の美味い米の開発と各地農家の美味い米づくりの懸命な努力が実を結びつつあるわけだ。今日の各県地方紙、「18年からの生産調整廃止までにコメ産地としての地位を確立したい本県にとって、追い風になりそうだ」(18年からの生産調整廃止までにコメ産地としての地位を確立したい本県にとって、追い風になりそうだ」(「金色の風」など本県4品種特A 16年産米ランキング 岩手日報 17.2.24))、「県産米の味への高い評価を追い風として、販売力の強化につなげたい」(県産コシヒカリ全て最高「特A」 11年ぶり 28年産米食味ランキング 福島民報 17.2.24 )、「4年連続は大変な快挙。おいしい米として、県民にたくさん食べていただければ、米農家は元気が出る。販路拡大にもつなげていきたい」(鳥取県産米「きぬむすめ」 4年連続の最高評価 日本海新聞 17.2.24 )などと歓迎ムードだ。 

 しかし、食味評価をした穀物検定協会は、「産地間競争が激化し、神奈川、岡山、高知の3県が初めて特Aを獲得した。協会は「各産地の生産者や研究機関の努力で食味の改善、向上につながっている。A′からAとなる銘柄が増え、全国的に食味が底上げされてにいる」(県産コシヒカリ4地区「特A」 16年産米食味ランキング 新潟日報 17.2.24 )。米需要が減少、美味ければ売れるという時代は終わりつつある。そんなか、各県一斉の特A獲得の努力は産地間の消耗戦に帰結する恐れがある。 少なくとも品質差別化のメリットは大きく薄れるだろう。何のための特Aかということだ。

 農水省の試算によると、「中食や外食などに向く値頃感のある米が、2016年産は約130万トン足りない」が、「価格がより高い家庭用の消費を狙った米は、供給が需要を130万トン上回っている」、「こうしたミスマッチを解消するため、産地戦略で家庭用から業務用への生産誘導が大きな課題に浮上している」とのことである(主食用16年産米用途 130万トン不均衡 家庭用過剰に 業務への誘導課題 農水省が試算 日本農業新聞 17.2.12)。 

 各道府県、コシヒカリ以来続いてきた美味い米作りの戦略の転換を迫られている。農家も研究者も安っぽい業務用米作りなんて意欲がわかないと言うだろう。しかし、農水省は今国会で、稲、麦、大豆の種子の生産や普及を都道府県に義務付ける主要農作物種子法を廃止するつもりだ。永年美味い米作りを担ってきた道府県農試はハシゴを外される。民間企業が業務用米開発・普及事業に参入するだろう。

 その影響はまだ見極め難い。外資を含む大企業による種子独占や遺伝子組み換え種子の普及を恐れる向きもあるようだが、それは誇大妄想かもしれない。ただ、農水省の狙いが良味を犠牲にした多収米の開発と普及にあるとすれば、それはそれで、わが国稲作に明るい未来を約束するとは言い難い。

 良味と災害(とくに冷害)・病害(とくにいもち病)への強さと多収性は、一般的には両立が難しいとされてきた (拙稿 「東北冷害から」 『レファレンス』 1977年4月号)。良味追求の育種の過程は、これらの両立、バランスを求める血の滲むような苦闘の過程でもあった。今日の特Aの繁茂は、そうした闘いの成果でもある。

 それを無下に否定、もっぱら多収を求める育種に転換するとすれば、気候変動が進むなかでますます強度と頻度を増す災害への抵抗性を弱め、わが国稲作の将来の災いとなる恐れがある。少なくとも、わが国の稲育種は、今以上の収量と災害への強さの新たなバランスを求めての再出発を迫られる。まさに道府県とその試験研究機関、米農家の正念場だ。

 関連情報

 東京新聞大図解シリーズ「日本の米」 職業政治家たち 強い米農業構築の軌跡を知れ 農業情報研究所 15.11.22






 

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Author:寿
農業情報研究所(WAPIC)=http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/の所長・所員・小使いを兼務

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